bullet proof soul / side-B

じつは防弾仕様になっておりません

 パラダイス・サルヴェージ / ジョン・フスコ 

パラダイス・サルヴェージ (角川文庫)
イタリア系三世のヌンツィオは、12歳の夏、手伝っていた父のジャンクヤードで、廃車のトランクに老人の死体を見つけてしまう。兄以外のだれも信じてくれないまま廃車は破砕機にかけられ金属の塊になってしまった。数週間後には再生のため海を渡って日本に送られるのだ。ヌンツィオと兄ダニーは、元警官で探偵社に勤めた経験もある叔父に助けを求める。車椅子生活を送る変り者の叔父と少年たちの冒険物語はやがて、思わぬ巨悪をあらわにして行く。
若き市長の下、過去の栄光を取り戻そうと模索する街。高校フットボールのスターだった過去を乗り越えられない兄。かつてはヒーロー扱いだったのに、汚職警官として一族から存在すら認めてもらえない叔父。この街で、彼らの中で、少年時代最後の夏を過ごしていく主人公。
「少年時代最後の夏」このテーマは多くの作家が取り上げる人気のテーマなのだけれど。何がこの作品を他とは違うものにしているのかというと、やはり登場人物の描写と小さなエピソードの魅力かしら。
リトルブーツと呼ばれるイタリア移民社会独特の暮らし。頑固な父、優しい母、まじない師(ストレーガ)の祖母、発明家の祖父、デニーロかぶれの役者志望の兄、ああ、家族だけでも凄いメンバーじゃない?。ここに悪徳警官として一族に縁を切られた叔父とその世話をする猿(!)や歌手志望のタクシー運転手の大女ジョニーなど、個性的な面々が加わってストーリーが展開します。因みに私にとってはキャラが立つことは大変重要なのです。この作品はその点でもう満点ですよー。それぞれがそれぞれの事情を隠し持ち、ひと夏で全てが変わってしまうそんな特別な夏の物語なのです。
600ページ以上のこの本の中で、事件に直接関係のある記述はけして多くありません。それどころか死体の身元を気に病むヌンツィオの周りでは、イタリア色に溢れる一族の暮らしが(何年もの間続いたとおりに)繰り返されていきます。実はこの毎日の暮らしの中に事件の根が埋め込まれているのですが。このあたりの描写も生き生きしていて、読んでいると画が浮かんできます。脇役までがちゃんと生きていて息をしているのが感じられるのです。とか思っていたら、この作家はハリウッド映画の脚本家なのだそうで、この作品も映画化が進んでいるそうな。ナルホドネとかおもっちゃったのですが、きっと細かい描写は端折ってしまって、つまんない映画になってしまうのではないかしらん。この作品は、そんな枝葉の部分に魅力が溢れているのだけれど。映画の世界を知り尽くした作者本人が脚本に仕立て直しているそうなので、期待していてもいいのかなあ。