bullet proof soul / side-B

じつは防弾仕様になっておりません

  ストリート・ボーイズ / ロレンゾ・カルカテラ

ストリート・ボーイズ (新潮文庫)

ストリート・ボーイズ (新潮文庫)

1943年9月のナポリ。敗色の濃くなったドイツ軍は、連合軍に有利な拠点となりうるナポリを無傷であけ渡す事を良しとせず、徹底的に破壊し尽くす事を決めた。市民達は強制退去させられ逆らう者は処刑された。しかしそんな中、市内に隠れ住んでいた数百人の戦争孤児たちが立ち上がる・・・・・・・・。「奇跡の四日間」として映画にもなったナポリ市民蜂起の史実をもとに描かれた戦争小説。
戦争物ですから当然のように人がバタバタ死んで行きます。敵も味方もバタバタと。その多くが子供たちなのですから、もう悲惨な事この上なし。こちらも子供なら敵もそう歳の違わない少年兵だったりします。戦争も末期で、ドイツが勝つとは当のドイツ軍さえも考えられなくなって来た時期の物語で、敵の指揮官であるフォン・クラウス大佐ですら、故郷の街を家族を(かなり悲観的に)心配しています。自分達がして来たことが故国でもなされている、破壊され殺されしているのだと心を痛めているのです。戦争をしながら、敵も味方も皆その悲惨さや虚しさを感じている人間の物語です。蜂起するナポリの子供たちは、親兄弟を目の前で惨殺されたり、自分もぎりぎりのところで生きている事を自覚している子供たちで、全ての希望を奪われた状態から反撃します。以前は楽しかった場所や時間を奪われ、もうそれらは戻らないのだという絶望感があちこちに感じられます。戦争ってそういうものなのです。今もあちこちで行われている戦争と言うものは。
史実を基に作られている以上、結末については読む前から解っているわけですが、それでも夢中で読みました。凄く面白い。ただ、実際の「ナポリの四日間」に蜂起したのは子供たちだけではありませんでした。それを子供中心に作った小説である事を思うと、作者の狙いがアリアリと浮かび上がってきて、ちょっと不快です。ややや上手い作戦だと舌を巻いてしまうんですけれどね。そういう作家なんだなあ。上手い。けどあざとい。読者のツボを心得てるって言うべきか。そうなのか。
同じ作者の「ギャングスター」なる作品を読んでいる途中の時期にオフ会がありましてね。そこでの会話の中でワタクシ(私以外の参加者は読了していましたのです)「もしかして○○って××なんじゃない?」て言うたら当たっていました。テッキーに予想したらバリバリ重要ポイントのネタバレでした。つまりそういうことなのですよ加藤さん。推理でも何でも無い。TVや映画で中途半端にスレた読者が、「もしかしたら○○が××だったりして!」とか「ここで××が△△したりしたらドラマ的に盛り上がるよねー・・・」とか想像するような展開がなされるのですよ。このカルカテラという作家は、読者が望む展開を予測してそれを書く能力を持っているのだと思います。あとはその先をどう裏切るかが今後の課題じゃないですか(すんごくエラソー。何様?)プロフィールにその片鱗が見られます。TV関係のお仕事を経験しているのです。そういう意味において、キャリアとスキルの関係を表していると思いますね良い意味で。うん、良い意味で。
なんだか貶しているみたいですが、ワタクシとてもこの作品が好きなのですよ。そうは思えない事ばかり書いてしまいましたけれど。いつもそう。褒めるより貶す方が簡単なのです。ワタクシもその罠にはまってしまい易い低レベルの読み手なのでしょうね。実際のところ、ワタクシこの作家の次作も楽しみにしているのです。絶対読みます。そして泣かされるのです。