bullet proof soul / side-B

じつは防弾仕様になっておりません

  アムステルダム / イアン・マキューアン  

アムステルダム (新潮文庫)

アムステルダム (新潮文庫)

物語はロンドン社交界の花形モリーの葬儀から始まる。彼女はレストラン評論家であり、ヴォーグで編集の仕事をした事もあり、写真家としても園芸家としても一流の女性だった。そして一部では奔放な恋愛遍歴でも知られていた。葬儀にはかつて彼女と関係のあった著名な作曲家、新聞社の編集長、外務大臣なども顔を揃えた。そして当然彼女の夫ジョージも。
やがて彼らは、モリーの遺した一連の写真によって過酷な運命に巻き込まれていく。



約200ページのわりと短い小説*1。しかし、このなかには不倫、アルツハイマー、特殊な趣味、暴露記事、ヤラセ、安楽死、等と言った現代社会を象徴するようなキーワードがちりばめられている。極悪人は出てこない。皆ほとんど善人。ほとんど。しかしそんな彼らの心の隙間に『何か』が巣食う時、悪意の歯車が回り始める。それは誰もが持っている『信念』とか『プライド』とかそんなものの変形したもの。ものすごく身近に狂気の芽は在って、思い出だの愛だの信頼だのを切り裂いていく。短いけれど、鋭く痛い、苦い、そんな小説だった。

*1:新潮文庫は良心的。税込み500円程ですよ。