bullet proof soul / side-B

じつは防弾仕様になっておりません

  ウォータースライドをのぼれ / ドン・ウィンズロウ  

ニールは前作で知り合ったカレンと、穏やかな暮らしを満喫していた。しかしその平和な田舎暮らしに、養父グレアムが「任務」を持ってやって来た。今回の任務、それは健全さが売りのケーブルテレビ局オーナー兼人気番組ホスト、ランディスレイプ疑惑事件で、被害者女性ポリーをまともな証人として通用するようブラッシュアップする事だった。今このレイプ事件は「ポリー・ゲート」と呼ばれ、全米で話題になっていた。その渦中の人ポリーは人里はなれたニールの元に送り込まれ、珍妙な英語レッスンが開始される。
彼女の口封じを狙う者あり、彼女を売り出して一儲けを企む者あり、ギャング、酒びたりの老探偵、クールな殺し屋、はてはランディス夫人とそのボディーガードまでもが入り乱れて、事態は混乱するばかり・・・・・。
えーと、以下ネタバレを含みます。たぶん。

待ってました!のニール・ケアリー・シリーズ第4弾。え、6年ぶり。 んまあ。
毎回そうなのですが、冒頭は、ニール君が理想の静かな暮らしをやっと手に入れた・・・・かのように見えるところへ、養父であり、人間社会のサバイバル術と探偵術のイロハを叩き込んでくれた片腕の小男グレアムがやってきて、彼らを雇っている「朋友会」からの仕事依頼を伝える所から始まります。ニール・ケアリーは「朋友会」の非常勤つーか、下請け雇われ探偵なのです。
今回押し付けられた仕事は、レイプ事件の被害者、ポリーをきちんとした信頼できる証人に見えるようにする事。そしてマスコミの詮索の届かないこの田舎に隔離する事。簡単そうに思えた仕事ですが、当のポリーはといえば、これがまた、見た目は超ケバいわ言葉使いは超酷いわの難物でした。かくしてマイフェアレディを彷彿とさせる英語レッスンがスタートするのですが、そうそう簡単には進まないのでした。兎に角ポリーは言うこときかない。そしてなにかと邪魔が入る。秘密のはずの滞在を、なぜだかみんなが知っている。どゆこと?
今回は利害関係も複雑でいつも以上に登場人物も多く、誰が敵やら味方やらという感じです。ニール君は当然主人公なわけで頑張ってるのですが、濃いキャラが多いこともあってやや霞んでるかしら。ナイーブさは健在だけれども、ときには恋人カレンの後押しが必要だったりします。なにげに大人になってきてしまってるような寂しさ。もちろん世間の汚れていくスピードたるや、ニール君の成長なんぞを軽く凌駕してるんですけどね。なんつーか、みんなマスコミ大好きなのね。全てはマスコミが作るのね。それが世の中なのね。世の中総白痴時代ですよ。ケーブルテレビ(&ファミリー向けの人気番組)しかり、エロ雑誌しかり。マスコミ=イメージ=カネ。そこに裏社会のカネが絡んでくるからもう大変。今回はさすがの朋友会もヤバいですよ。キタリッジ会長の手に負えなくなってきてますよ、何がって世の中が。どうなってしまうのー!と思ったらニール君らしい結末が待っていました。一安心かな。そうなのかな。
ニール君には、あまり現代社会は似合わないのね。彼の幸せって簡単そうで簡単じゃない。この後、世間の喧騒から離れた独自の暮らしを送れる事を願って止みません。それでも彼は毎日毎日ちょっとしたことに心を痛めつつ、譲歩したり片意地張ったりを繰り返しながら生きていくんだろうなあ。 このシリーズもこれで一応の終幕だそうなので。うーん。
ストーリーが波乱万丈で、登場人物が色とりどりで(「歓喜の島」のウォルター・ウィザーズまで出てきますよ。ちょっと泣かせますよ)なんで私、こんなに物足りないんだろう。たぶんそれは、シリーズが終わり、もう第五巻の『後日談みたいなもん』しか残ってないって事と関係が有るんだろうなあ。ソレ、早く読みたいような、読みたくないような、やっぱ読みたい。早く読ませろ創元社