bullet proof soul / side-B

じつは防弾仕様になっておりません

  春を待つ谷間で / S・J・ローザン  

春を待つ谷間で (創元推理文庫)

春を待つ谷間で (創元推理文庫)

私立探偵ビルは、ニューヨーク州北部、いわゆるアップステートに山小屋を持っている。ここを買ったのは一人静かに過ごすためであったが、この晩冬の或る日、初めて仕事を引き受けてやってきた。この地で農場を経営するイヴからの依頼で、盗まれた「特別な品物」を、秘密裏に取り戻す仕事だ。調査を始めたとたん、ビルは殺人事件に巻き込まれ、家出人探しを頼まれ、保安官に睨まれ、地元のワルどもに絡まれる。一件平和な山間の町に、なにやら不穏な空気が・・・・・・・。


むくつけきアイリッシュの大男ビルと、チャイナタウン産まれの中国系女性リディアが、交互に語り手となる、ちょっと変則的なシリーズの第六弾。今回はビルがメインの回。
個人的に(何度も言ってる気がしますが、リディアの回はちょっとツライです。身につまされる部分があって)ビルの回の方が好きです。ごつい見かけに繊細な心を持つビル。重い過去を背負っていながらもそれを決して見せびらかさない強さ。だからこそ他者へのまなざしが優しいのでしょう。
この作品では、犯罪小説ですから当然のように悪役が出てくるのですが、悪の化身みたいな存在が出てこないでもないのですが、読み終えると彼らそれぞれの中の弱さが身に沁みます。みんな人間なんだねえ、人間って弱いんだねえ、みたいな。 過疎化していく地方の経済、産業の誘致と環境破壊、美味い汁を吸う一部の人間とその陰で苦しむ人間、世代間の断絶。なんだか思い当たる節がありませんか。ぎゅーってなりませんか。それでも読後感は不思議と爽やかなのがこのシリーズの特徴ですね。シリーズ開始当初から比べると、ビル&リディアの距離も徐々に近付いて来ているように思えるのも今後に期待が持てちゃうところです。
地味だけど読み応えのあるシリーズ、オススメです。