bullet proof soul / side-B

じつは防弾仕様になっておりません

  犬の力 / ドン・ウィンズロウ  



読了。


畳みます畳みます。








麻薬と組織犯罪、金と権力、裏切りと永遠に繰り返される復讐。そして政治。重くて濃い。無数の屍が折り重なった果てに得られたものとは。
登場人物の誰一人として完全な善人ではない。麻薬カルテルの頂点に君臨する一家、美貌の高級娼婦、政治の世界で権力を振るうものも、正義の化身のような麻薬捜査官も、敬虔な聖職者でさえ純粋な善人ではないのだ。自分の中にどす黒い悪を自覚したとき、それでも前に進もうとする信念をどう正当化すればいいのだろう。大切なものを犠牲にして手に入れた結末は、果たして満足のいくものだろうか。たとえそうでなかったしても様々な理由でまたは信念でやり遂げなければ居られない人間達の姿を追う物語。悲惨でありながらも目を逸らすことが出来ない筆力に圧倒されつつページをめくった。
今なお熾烈を極める麻薬戦争、公然の秘密のようなアメリカの介入を思えば、これより悲惨なエンディングもあっただろう。これは考え得る最高のハッピーエンドなんじゃないだろうか。無力感ややりきれなさを漂わせつつも、希望(或いはそれに似た何か)を感じさせてくれるのは、やはりウィンズロウならでは。
激しく堪能(いっぺん言ってみたかった)。