bullet proof soul / side-B

じつは防弾仕様になっておりません

  名もなき墓標 / ジョン・ダニング  

名もなき墓標 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

名もなき墓標 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

サーカステントの火災で死亡した一人の少女。ところが誰も遺体を引取りに来ず、身元不明のまま葬られることに。新聞記者のウォーカーはこの小さな事件が気になり独自の調査を進めるうち、ある夜、少女の墓を訪れる女性を目撃。この女が少女の母親なのだろうか。女を尾行し、家や氏名をつきとめたウォーカーは、FBIの友人にも協力を求め背景を調べていく。しかし、実はこの女性、20年ほど前の未解決事件と繋がっており、気がつけば身辺には国家的な陰謀が張り巡らされていた。最初は記事のネタにと思っていたウォーカーも否応無しに巻き込まれていく。決死の逃避行はニューヨークからシカゴ、そしてアーミッシュの村へ・・・・・・・・・。
一気読み。凄く面白い。でも少し物足りない。もっと書き込めたはずなんじゃないかしら。
上の粗筋紹介には書いてないのですが(上手く盛り込めなかった。恥)アーミッシュ出身のダンサーが登場していて、ウォーカーと仲良くなります。文明を拒否した厳格なクリスチャンの集落から抜け出して、ニューヨークでダンサーになったダイアナ。彼女の物語がもう一つの軸となっていて、最後に辿りついた故郷で、事件と共に一つの決着をみることになるのです。が、話が進行するにつれて、存在感が希薄になっていく気がします。いや、そんな事は無いか。彼女の内面や葛藤がちゃんと描かれているのだけれど、事態が事態なので、読み手である私がスルーしてしまいがちだったかな。そうかな。逆に「謎の女」であるジョアンの方がリアルに感じられてきました。その追い詰められた感じが。
最後の決着のつけ方は納得。ジャーナリストとしての使命と命の保障のバランスから当然の結末。
作者自体が元新聞記者だったそうで、仕事関係についての描写にも臨場感がありました。巻頭に作者の序文があるのですが、それによるとこの作品は他の作品に比べると大した苦労も無く一気に書き上げたそうな。「アーミッシュ」「ラジオシティーのロケッツ」「殺人の被害者が身元不明のまま無縁墓地に埋葬」といった新聞のスクラップから三題話のように思いつき、肉付けしていったのですって。その過程も書かれていて、本作と共に楽しませてもらいました。