bullet proof soul / side-B

じつは防弾仕様になっておりません

  深夜特別放送 / ジョン・ダニング  

深夜特別放送〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

深夜特別放送〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

深夜特別放送〈下〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

深夜特別放送〈下〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

1942年アメリカ。駆け出しの小説家デュラニーは些細な事で逮捕された。面会に来た古い知人から愛する人ホリーの窮地を知り脱獄するが、ホリーは失踪し、頼りの知人も殺されてしまう。ホリーの足跡を辿り行き着いたのは海辺の小さな町。ホリーはそこで歌手として注目され始めていたのだった。デュラニーは偽名を使って地元ラジオ局で脚本家の仕事にありついた。時はラジオドラマの黄金時代。彼は次々にヒット作を書き、ラジオ局のスタッフやキャストたちと親交を深める。しかし、その海辺の町ではナチスの上陸作戦のうわさが囁かれ、謎の殺人事件が続いていた。デュラニーはラジオドラマの脚本を書きつつ捨て身の罠を仕掛けていく・・・・・・。
以下、もしかすると(苦笑)ネタバレを含みます。
反転させると読めますよ。

ジョン・ダニングにハズレ無し!夢中で読み進めました。これって反戦小説か違うか。とにかく作者は、人間が同じ人間にどれ程残酷な仕打ちをする事が出来るものなのか、そしてそれは未だに繰り返されているじゃないか、と訴えてるように思いました。それを別にしても面白いよー。
ただ言わせて貰うと、偶然に頼りすぎだし、犯人の動機が理解しにくい。後者はきっとワタクシ自身の勉強不足と認識の甘さによる感想かもしれないけど。最初の殺人に関して言えば、それは大義のためであり、自分の正体を知られないためだったと思うのだけれど、それに関しては主人公は関係なくて、その殺人を隠すための第二の殺人から関わってくるんですよねそうですよね。まあ、それも最初の殺人と正体を隠すためなんだけど。多分私が引っ掛かってるのは、最初の殺人。ボーア戦争なんて歴史で習った記憶すらないワタクシなので。歴史に明るい人ならもっと楽しめたかな。
ワタクシが夢中になって読んだ理由はおそらくサイドストーリーとなっている、ラジオドラマの脚本家として主人公が才能を発揮していく部分ですね。ちょっとしたサクセスストーリーとも言えます。その連帯感高揚感がなんというか共感できちゃったのですね。この作品中、主人公は「デュラニー」「ジョーダン」「彼」と三種類の人称で表現されています。本来の彼と古くからの知り合いの関係を描く時には「デュラニー」。ラジオ局では「ジョーダン」。それ以外では「彼」と描き分けられています(後書きを読むまで気付かなかった。混乱するなあと思ってた)。主人公は二重生活(読者からみれば三重生活)を送りながら、事件を追い、愛を深め、仕事に燃えているわけです。ちょっと今までになかった作品じゃないかしら。凄いかも。
クライマックスの後に、エピローグとして登場人物のその後の姿が描かれています。もしかすると、そこが読者の評価の分かれるポイントになるかもしれません。クライマックスでドーーンとやっつけて終わりじゃないのです。事件が解決しても人生は続くのです。
さて、このエピローグに出てくる女性は誰かとは明言されていません。だれかしら。ワタクシはもちろんホリーだと思うんですけど。459ページの最後の記述から考えると、そして息子の歳からいくとリヴィア?いや、その息子の年齢も曖昧にされてるし。ワタクシとしては、ホリーを見つけたと思いたいのです。だって、デュラニーの決意は固かったでしょ。ね。